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小説 「エメラルドの首飾り」  その4

          その4

達哉が彼女の首飾りを見て驚いたのはその見事さだけでなかった。殆ど違わないほどのものを達哉は持っているからだった。持っているというのは少し正確な言い方ではない。居間の玄関に通じるドアの傍に専用の台を据えてその上に置いたトルソーにエメラルドの首飾りを飾っていたのだ。朝出かけるとき、夜会社から帰ってきたとき、その首飾りの横に置いてある亡き妻の写真にあいさつするのが習慣になっていたのだ。その首飾りと彼女の首飾りがそっくりだった。毎日朝晩見ているから間違いがない。

エメラルドの首飾りは妻の母親の形見だった。母親は亡くなるまえに彼女に「これは私の形見。大事にしてね」と言って渡したそうだ。父親と結婚したときにプレゼントされたそうだ。かなりの値段のものだろうと思う。その母親の形見を妻は箱のなかに大事にしまっていた。
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パンフレットを拾う時に彼女の胸の首飾りを見て達哉が「あっ」という小さい声を出したけど、その声に彼女が気が付いて「どうかしましたか」と訊ねてきた。「いえ、なんでもないです。ごめんなさい」と達哉が答えた。

このレストランを彼女も気に入っているようでその次に達哉が行ったときには彼女が先に来ていて食事を始めていたところだった。達哉の指定席のようなお気に入りの席の隣に座っていた。
達哉のお気に入りのその席は不思議に大体いつも空いていて座ることができた。彼に気付いて彼女が軽く会釈をしてきた。達哉も会釈を返した。また例によって例の如く「カキフライ定食」を頼んだ。今日はいつものウェートレスではなかったので「カキフライ定食」を注文しても当然微妙な笑顔はなかった。なんとなくわけもなくほっとする。
二人とも食事を終えてコーヒーをゆっくり飲んでいたら彼女が「この前はどうもありがとうございました」と話しかけてきた。僕はお礼など言われると思っていなかったので、ちょっとまごつきながら「いぇ」と言った。「お礼というほどのものでもないですがこれどうぞ」と小さな紙包みを差し出してきた・「いや、そんなこと。いいですよ」と達哉がいったけど彼女は達哉に押し付けるようにして渡してきた。「たいしたものではありませんから。小さな和菓子一つだけ。甘いのものはだいじょうぶですか?」「どうもすみません。甘いものも好きです」「あ、よかった」と彼女が微笑んだ。

          つづく
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小説 「エメラルドの首飾り」  その3


             その3

その夜から3週間ほど経って達哉は仕事が遅くなりまた駅前のそのレストランで食事を摂った。相変わらずのカキフライ定食。注文を取りにきた例のウェートレスが「そう、カキフライですよね」というような笑みを浮かべていたが、達哉は気が付かないふりをした。
注文をしてからすぐに達哉の座っている窓際の席の隣にこの前も来ていた女性が座った。達哉は少し驚いた。
彼女の今夜はノースリーブの薄いベージュのワンピースで彼女の雰囲気にピッタリだった。

今日も暑かった。猛暑が続く。僕はいつものように冷たいピールを飲みながらタブロイド判の夕刊を読みだした。しかし彼女の様子も何とはなしにうかがっていた。前のガラス窓に写る彼女はぼんやりではあったけれど美人だった。こういう店には少しばかり違和感を感じるほどだ。
このレストランの向かい側はブティックなのだが明るく照明されたショーウインドーのマネキンを思わせるほどだ。

彼女はハンバーグ定食を頼んだようだ。美人も普通のハンバーグを食べるのだなぁ。彼女は小さなバッグからパンフレットを取り出して読みだした。距離があるのでよくわからないけどどうやら旅行のパンフレットのようだ。

料理が運ばれてきた。彼女は胸にナプキンを付けた。ハンバーグの汁できれいな服が汚れてはいけないからな。

食事が終わってコーヒーの飲みながらまた夕刊をめくる。隣の女性も食事を終え胸のナプキンを外し、さっきのパンフレットと取り出したけれど、そのうちの1枚が彼女の手元を離れて舞うようにして達哉の足元近くに落ちた。達也は身を屈めて落ちたパンフレットを拾い上げたとき隣の女性も身を屈めて取ろうとした。達哉は小声で「どうぞ」と言って手渡そうとして、その時彼女の胸に思わず目がいった。声にならない声が出た。「あっ」
女性は達哉が拾い上げたパンフレットを受け取り「どうもありがとう」と達哉に礼を言った。

達哉が彼女の胸に見たのは見事な大粒のエメラルドが付いた首飾りであった。

             つづく

プロフィール

ゆたか

Author:ゆたか
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72歳 男 浜松市在住
病身なので更新は時々です。
なお植物の写真を載せていますがとにかく素人なので植物の名前は正確とは言えません。
小説も書くこともあります。
よろしくお願いいたします。

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